封じ結び-fuji musubi-

 戦国時代、茶室は密談の場所としても使われ、各藩の茶道役は主君が毒殺されるのを防ぐために、茶入れ袋(仕覆(しふく))の結び方を自分だけが知っている秘密の結びにしました。
たとえ結びを解いて毒を混ぜたとしても、もと通りに結ぶ事が出来なければその目的は果たせません。つまり仕覆の結びは鍵の役目をしていたのです。このような結びを「封じ結び」といいます。
 結び方は一切が口伝で記録がなく「幻の結び」といわれていました。頑丈な容れ物に鍵をかけるのではなく、あくまでも美しい茶道具としての姿をとどめながら、「紐をさわればすぐにわかりますよ」と相手に呼びかける仕覆の結びもまた、心を伝える結びの一つです。今では鍵としての役割を終え、封じ結びは美しい飾り結びとして伝えられています。仕覆の結びは日本の結び文化の特徴を色濃く持っているように思います。
 故井筒雅風氏によりますと「結びは締めることによって完成する」とあります。さらに「この完成にも不足があり、解、とく、ほどくということが可能であることが結びの条件にもなる。解きにくい結びがあってもよいが、とけない結びがあってはならない。(略)解けるという柔軟性が結びの文化を高めていった」と語っています。このことはとても興味深いことでした。
 茶道、香道の袋物の結びは、使うという観点から解くという行為は不可欠です。美しく結ばれた紐を解く所作は清々しくもあり、解かれた紐はまた凛とした結びに再生されます。この繰り返しに耐えられる日本の組紐の強さと柔軟性が日本独特の結び文化を支えてきたのかもしれません。


戻るspacer.gif次へ